信濃錦タイトル画像

はじめに
防腐剤無添加酒の開発
酒造好適米全量使用と契約栽培
純米酒へのこだわり
信濃錦の味わい
 追い求める個性
 芳醇辛口純米酒への
 挑戦
 究極の辛口酒造り
 『一瓢』の開発
 吟醸造り
 『一瓢』の進化と
 その味わい
顔のみえるということ
最後に
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お求めは
蔵元情報

 私共蔵元は、素材や製法にこだわるばかりに、そのスペックばかりを強調して参りました。しかし、嗜好品である以上、どの様な味わいの酒を造りたいのかが明確でなくては、どんなに良い酒でありましても、魅力の余り無い「優等生」の酒となってしまいます。
 その意味で、日本酒を造るということは、蔵元の表現行為そのものであると考えています。
 私共では、素性の確かな高品位米の持ち味を存分に引き出し、旨味がしっかりと表現された「芳醇」な酒が「信濃錦」の個性であると考えています。その上で、料理との相性をより重視した「芳醇辛口」酒を、更なる明確な個性とすべく日々努力しています。

 追い求める個性
 日本酒の製造技術は、ある意味で成熟しています。
 また原料である米も、どこへでも輸送可能です。
 そのため、極論を言えば、兵庫県特A地区産の山田錦を買い入れ、名水と言われる仕込水を運び、優秀な杜氏を雇い入れて、吟醸酵母を用いれば「素晴らしい酒」は出来るでしょう。
 しかし、そこに蔵元の方向付けが無ければ、どの蔵の酒もある意味で同じような「優等生」の酒となり、飽きられてしまいます。
 私は、ワインの味わいの広がりを100とすれば、日本酒のそれは20か30では無いかと思っています。
 その狭いエリアの中で、どこかの蔵が売れているからといって、似たような酒を造るという、後追いを繰り返していたのでは、いつまで経っても市場はしぼんでゆくばかりです。
 以前は、癖が強く欠点の多い酒とされていた「乙類焼酎」が、現在では個性豊かな酒として根強い支持を得ています。
 日本酒が吟醸酒タイプばかりを追いかけている間に、お客様の嗜好は、味わい深く個性豊かな酒へと変容し続けています。
 現在、私共が追及しております味わいの方向性「芳醇辛口」は、食あってこその酒です。米の旨味を感じさせる純米酒のコクと、キレ味を兼ね備えた『芳醇辛口純米酒』こそ、私共の考える「食中酒」であると考えています。

 芳醇辛口純米酒への挑戦
 私が大学生でありました昭和50年代後半より昭和60年代初めにかけましては、地酒ブームというような時期であり、強烈な吟醸香と軽快な口当りの大吟醸がもてはやされ、新たな流れが形成されていた時代です。
 しかし、当時の「信濃錦」は味が重く、熟成香が癖として感じられる酒であり、美山錦を全面導入し、酒質の向上に努力を始めていたとは云え、まだまだ緒に着いたばかりといったところでした。
 ある時、私は青森県の「田酒」という酒に出会いました。
 この酒は、大吟醸の様な華々しさはありませんが、五臓六腑にしみわたる様な、深い味わいを持ち、私を芳醇なる純米酒の世界に引き入れてくれたのです。
 そして、この「田酒」との出会いを原点として、「信濃錦」らしい芳醇な旨味を個性とした、キレの良い食中酒を造るという、私共の芳醇辛口純米酒への挑戦が始まりました。

 究極の辛口酒造り
 私共では、昭和50年代半ばより「飲み飽きせずサラリと飲める」究極の辛口を造りたいとの思いから、『極辛口』という名の酒の製造を始めました。
 当時、巷では日本酒度プラス5から7程度の「大辛口」と称される酒が販売されておりましたが、「大辛口」というには不十分であると感じ、日本酒度プラス15を目指して開発を始めました。
 当初は、一般的な普通酒規格(アルコール添加酒)でしたので、日本酒度プラス15の実現まで、さほど時間を要しませんでした。しかし添加アルコールにより、日本酒本来の旨味成分も薄まってしまうため、お客様に「スッキリしているが焼酎の様な酒だね」と揶揄された事もありました。
 「もっと旨味を出さなくては」との思いから、アルコールの使用を最小限に止めた本醸造規格での製造に取り組み、それを基にして、私の念願でありました純米大辛口酒の開発へと進む事になりました。
 ところが、純米規格での大辛口の製造の難しさは、本醸造の比ではありません。
 純米仕込では、醪での雑味が、そのまま製品に移行してしまいすので、だた単に所定の日本酒度に達すればそれで良しといった造り方はできません。
 初年度の酒は、純米酒らしい旨味はあるものの、苦味や渋味が多く、荒々しい酒に仕上がってしまいました。夏を越して角が取れたと判断した私共は、その酒を携えて東京の料飲店を尋ね歩きました。それも地酒ばかりを集めた名店と呼ばれる料飲店ばかりです。
 しかし、この純米酒の話になりますと、どのお店でも首を縦に振って戴けません。
 「雑味が有り過ぎる」と。

 『一瓢』の開発
 翌年、雑味の低減を目指し、改めて挑戦致しましたが、まだ角の立ったゴツゴツした印象は拭えません。「やはり辛口酒には熟成が必要だ」。それが、当時の私共の結論でした。
 一年後この酒は『一瓢』と名付けられ市場に出されました。本醸造には無いコクを持つ辛口酒となりました。しかし『もっと柔らかく、余韻の爽やかな酒はできないのか。』そんな想いが頭の中を離れませんでした。
 数年後、雑味をより低減できないかと、精米歩合を思い切って上げた米で製造して見ましたが、却って米が溶け易くなるため、大辛口にはならず、『一瓢』として売れる酒が殆ど出来ない年もありました。
 柱商品に育て上げる、との意気込みは壁に突き当り、このままでは、キワ物商品化も免れない状況でした。

 吟醸造り
 平成に入り、地酒ブームは吟醸酒ブームとなり、国税庁醸造試験場主催の全国新酒鑑評会で金賞を獲る事が、銘酒の証とさえ云われるようになりました。
 私共でも金賞獲得を目指し、吟醸酒造りに励んでおりましたが、ある年の事、蔵に泊まり込んでの滞在指導に見えられた国税局の先生に、『こんな事をやっていたら金賞なんかとれる訳がない』と、それまでの吟醸酒造りを全て否定されてしまった事がありました。振りかえりますと、それまでの私共の酒は、柔らかさが足りず、味があっても重く、何かゴツゴツした印象がありました。
 その先生の指導の下、より豊かでまろやかな味わいの酒を造るため、吟醸造りのみならず、酒造りの全てに亘って、徹底的な見直しを行いました。それは、洗米の方法から蒸米時の蒸気管理、麹造りから醪管理へと、吟醸造りをひとつの模範として、酒造りとは何かを改めて見つめ直す、大変な作業でした。
 その結果、とても味わい豊かで、圧倒的な存在感を持つ大吟醸酒が搾り上がり、この年の全国新酒鑑評会で銀賞を獲得する事となりました。そしてこの酒こそ、『一瓢』に欠けていた、柔らかさや余韻の爽やかさを持つ酒であったのです。
 その後数年の時を経て、平成5年より五期連続して金賞を受賞する事になるのですが、吟醸造りの技法が安定した平成9年には、その技法を全ての酒に活かしたいとの想いから、麹室を拡張して全ての酒の麹造りを大吟醸と同じ箱麹法に切替え、同時に大吟醸の仕込みタンクと同じ醪の品温管理装置を、全ての醗酵タンクに装着する事となりました。
 その結果、全ての酒が豊かな味わいとなり、香りも品良く、柔らかなふくらみのある酒へと変って行ったのです。(平成12年には「出麹乾燥室」を設置し、より酵素力の強い麹の製造が可能となりました。)

 『一瓢』の進化とその味わい
 『一瓢』につきましても、味わい豊かで余韻の爽やかな酒質を目指し、試行錯誤を繰り返しておりましたが、平成11年、ついに大きな変化が顕れました。
 この年の『一瓢』は、搾りたての原酒でさえも、旨味が豊かで柔らかな酒に仕上がったのです。飲み飽きせず、料理の良さを最大限引き立てる事ができる、芳醇辛口酒を造りたい、との私共の夢が、手の届くところまで来たという思いで、感無量でありました。
 翌平成12年の造りでは、新設の麹乾燥室を活用した、力強く酸の少ない麹を用いて醸造し、更なる酒質の向上を目指しました。
 『一瓢』を口に含みますと、大辛口とは思えない旨味を感じます。
 特にぬる燗に致しますと、柔らかな甘味さえもが広がります。そして、その旨味はほど良い余韻を残しながら、スーっとキレていきます。そして、ついまた手が出てしまうのです。
 不思議な事に、この表現は出品用の大吟醸酒の場合と殆ど変わりません。
 にも拘わらず、『一瓢』は品評会出品酒の様な「優等生の酒」とは異なり、もっと骨太な自己主張を持った酒です。この酒は、通常は雑味として否定されがちなアミノ酸による旨味をベースとして、日本酒度プラス10前後のキレ味と、協会11号酵母特有のリンゴ酸とが相俟う、食中酒としての明確な個性を持っています。
 この酒のアミノ酸は、昆布のグルタミン酸や、鰹節のイノシン酸のように、自分自身で強烈な旨味を主張するのではなく、干し椎茸のグアニル酸のように、それ自体では強い旨味はないものの、他の旨味成分と合せると、その旨味の幅を大きく拡げてくれるタイプのものです。
 そのため単独で味わいますとアミノ酸が苦く感じ、またリンゴ酸の酸味が強調されますが、食中に味わいますと、どのような食材でも、その旨味を引き出し、またリンゴ酸が爽やかなキレ味を演出してくれますので、飲み飽きせずに、食も酒も進んで参ります。
 ベタ甘の『三増酒』を否定した新潟酒に代表される「淡麗辛口」というジャンル。そして、それへのアンチテーゼとしての「芳香旨口酒」というジャンル。これらのジャンルは、一時のブームという言われ方をされることがありますが、その中でも個性豊かで完成度の高い酒は、依然安定した評価を受けています。
 世界を見渡せば、酒は食とともにあり、日本酒もまたそうあるべきと考えます。料理を引き立て、料理によって引き立てられる「芳醇辛口酒」というジャンルは、まだまだこれからです。
 私共では、あくまで日本酒を食中酒として捉え、「芳醇辛口酒」という日本酒のジャンルの確立を目指すとともに、その完成度をより高め、「芳醇辛口酒」に『信濃錦』ありと云われるような酒に育て上げたいと考えております。
 酒は食の中にあって光るもの。決して品評会のためだけに存在しているのではありません。「信濃錦」は、味わって楽しめ、喜びを広げ悲しみを癒せるような酒でありたいと思います。
 『一瓢』とてまだまだ未完成です。火入酒のみならず「搾りたて」「生酒」「ひやおろし」といった季節による味わいの変化をご提案する他に、日本酒の可能性を広げるべく、「芳醇辛口」をキーワードとして、味わいの幅をより発展的にご提案できるような酒の開発を進めたいと考えています。

 酒の世界は深遠です。
 ワインの酸味、ビールの苦味、ジンの渋味など、今までの日本酒では敬遠されがちであった味わいは、実は決して否定的なものではなく、食を意識すればするほど魅力的なものに思えます。そしてその味わいを追求し、より洗練させる事により、まだまだ日本酒は大きく飛躍できると思います。
 日本酒イコール「吟醸酒」というわけではありません。
 日本酒には、米の旨みを個性的に表現できる「純米酒」があります。
 平成16年より「純米醸造酒」は精米歩合の制約から解放されましたが、現在ではそれ以前に比べ、日本酒の味わいに大きな広がりが見えはじめていると実感しています。

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